MART SPIRIT IRCクラス 年間優勝レポート2025

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通算4度目の頂点へ。勝利を引き寄せた「1%のアジャスト」とボートスピードの真実

2025年シーズン、関西ヨットクラブ(KYC)ポイントレース。私たちはIRCクラスにおいて通算4回目となる年間優勝を手にすることができました。(20、22、23、25
まずは、一年間共に戦い抜いたクルー、素晴らしい舞台を用意してくださった運営の皆様、そして切磋琢磨し続けたライバル艇の皆様に、心からの敬意と感謝を捧げます。

今シーズンの戦いは、まさに「1秒、1センチ」を争う極限の状態が続きました。

なぜ「MART SPIRIT」が激戦を制し、安定してトップを走り続けることができたのか。今回はチームキャプテンの視点から、私たちが今季最も心血を注いだ「ボートスピードの追求」について、技術的な側面を少し詳しく振り返りたいと思います。

1. 「セイルトリム」の再定義:常にトリムし続ける勇気

IRCクラス、特にいHPR40クラスのようなハイレベルな戦いでは、ベースとなるスピードがほぼ互角であることは珍しくありません。その中で一歩抜け出すために徹底したのは、「セイルトリムを1秒たりとも怠らない」ことでした。(グルーブに乗っかっている時はトリムしませんが)

微風から強風まで、波の入り方や風の強弱(パフとラル)は刻一刻と変化します。今季の私たちは、メインセイル、ジブセイル共に、これまで以上にアグレッシブなトリムを実践しました。
特にアップウィンドでは、テルテールや計器を見るだけでなく、フォアステイのサグ量やマストベンド、さらにはバテンの返り具合をミリ単位で監視。風の力でボートが「加速したがっている」のか、「キープしている」のか「減速している」のかを常にトリマーとヘルムスマンが共有し、わずかな加速の余地も逃さずツイストと深さをアジャストし続けました。この細かなトリムの積み重ねが、バウ先数センチのリード、ひいてはマーク回航時の大きな差を生み出したのだと思います。

2. 「ボートバランス」の最適化:1度のヒール角が勝敗を分ける

次に注力したのは、徹底したボートバランスの管理です。
西宮の海は、時に複雑なチョッピーな波が発生します。こうした海面で最も重要なのは、ボートを常に「設計上の理想的な角度(Design Waterline)」で走らせることです。

私たちはクルー全員に対し、ハイクアウトバランスだけでなく、前後方向のウェイトトリムについてもシビアな要求を行います。

おおまかには

  • ライトエアー時: 船首をわずかに沈め、接水面積を最小限に抑えることで抵抗を減らす。
  • ヘビーエアー時: 適切なヒール角(Target Heel)を維持し、適正な舵角をキープ、ラダー(舵)への負担(ラダーブレードのツイスト)を最小限にする。(ラダーが柔らかくツイストが大きいと水中でリフトを得られなくなる)

ラダーが受ける無駄な抵抗は、ボートスピードにとって最大の敵です。舵角を可能な限りターゲットに近づけるため、セイルフォースとウェイト移動による「バランスの調和」を追求してます。特にスクエアヘッドのメインセイルはとてもツイストトリムが重要でクルーが一体となってボートをターゲットヒールアングルに保とうとするその数センチの動きが、確実にボートスピードへと変換されていきました。

3. 「準備」という名のボートスピード

ボートスピードは、レース中のトリムだけで決まるものではありません。
レース当日の朝、まだ他の艇が準備を始める前から、天気予報に基づき私たちはセイルチョイスやリグテンションの微調整、レース準備に時間を費やします。
データに基づいた「その日のベストチューン」を予測し、スタートラインに立った瞬間に、誰よりも速く走れる自信を持っていること。この精神的な余裕が、混戦の中での冷静なタクティクス判断を支えてくれました。

次なる挑戦へ:チャレンジャーの志を胸に

通算4度の優勝という結果は光栄ですが、同時に西宮の海は、私たちに「まだ速く走れるはずだ」という新たな課題を突きつけてきます。完璧だと思ったセイルトリムも、後からビデオで見返せば改善の余地が見つかります。

この勝利に甘んじることなく、来シーズンもさらなる精度を追求し、より洗練された「MART SPIRIT」の走りをお見せできるよう、チーム一丸となって邁進してまいります。

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