Japan cupが参加艇激減で開催できなくなり現在では実質国内最高峰のグランプリレースとなるHPR Championshipが8/11から8/14まで灼熱の太陽の下、関西ヨットクラブの西宮沖で開催された。
■HPRとは
軽排水量で長いガンポールから巨大なジェネカーを展開し、スクエアヘッドのメインセイルとカーボンマスト左右に分かれたバックステイ、ヘッドステイテンションやベンドコントロールのためのディフレクター、油圧システム、ジェネカーテイクダウンシステム、ペディスタルとインショアレースに特化したレーシングボート。
日本では2018年からJAPAN HPR CLUBが発足し当初は年に2回(関東、関西)開催される予定で始まりましたが、2019年のGWに開催された関西シリーズを最後に台風やコロナの影響で中止に見舞われ開催できませんでした。今年は3年ぶりのChampionship開催となります。
参加艇
関東からは前哨戦のHPR Regattaで優勝し勢いに乗る〈ESPRIT〉と、UKのFAST40+Class最速艇を引っ提げて〈KARASU〉の2チームが遠征。
迎え撃つ関西勢は昨年TP52スーパーシリーズでワールドとシリーズ年間チャンピオンとすばらしい偉業を達成し久々の国内グランプリレースに戻ってきました。NZで大改造を行い驚異のポテンシャルをみせる〈SLED〉
そして同じく大倉オーナーの熱意から始まったSIESTAを核としベテランも乗り込む若武者集団〈SORI〉
若きビックオーナー、ハイレベルでタフなHPR40フリートで唯一のオーナードライブ
キール改造を施し軽風域でのポテンシャルが飛躍的にアップした関西の名門〈SWING〉
アメリカの古豪スプーキー、艇齢10年と古いがスティーブベンジャミンにより高い精度でシェイクダウンされた〈MART SPIRIT〉の全6艇が集結と、今の日本外洋レース艇界トップチームが大集結したといっても過言ではない。
大接戦の滑り出し
Race 1 Start 2022/8/11 12:45:00
Class:FAST40+
Wind Speed : 8.5 kt to 12.0 kt
Wind Angle : 255 dag to 265 dag
Course Length : 5.6 miles
レース初日は西南西から10ノット前後の軽風からスタート
2上までトップ回航した〈SLED〉がジェネカーホイストトラブルで順位を落とし、スタートで出遅れた〈KARASU〉が上手くカムバックして着順2位修正1位。
なんと6艇が約45分走って修正タイムで57秒以内、しかも修正タイム3456秒で〈SWING〉と〈MART SPIRIT〉が同じ秒数。
また〈SORI〉と〈ESPRIT〉が修正タイム3495秒で同じ秒数で1レース目から信じられないぐらいタイトなレースが始まった。
Race 2 Start 2022/8/11 14:00:00
Class:FAST40+
Wind Speed : 14.0 kt to 16.0 kt
Wind Angle : 260 dag to 270 dagCourse Length : 6.4 miles
さらに風速が上がり〈SWING〉がスタートから飛び出しフリートをリード。
しかし1上3位回航の〈SLED〉が驚異的な追い上げでトップフィニッシュ。
着順2位の〈MART SPIRIT〉は〈SLED〉に修正タイム11秒届かず。
この日は〈SWING〉が良く走ってたイメージ。
初日の総合成績は
MART SPIRIT 4.5点
SWING 5.5点
KARASU 6点
SLED 7点
ESPRIT 8.5点
SORI 10.5点
想像通り、僅差の大接戦でチャンピオンシップに相応しい幕開けとなった。
この風域ではアップウィンドでボートスピード約8ノット、ダウンウィンドでは約16ノットとアップウィンドの2倍となる。
アップウィンドはシフトに合わせてタクティカルにダウンウィンドはハイスピードでプレーニングしっぱなしとなるためジェネカーホイスト、セット、ジャイブでのスピードビルド、できるだけプッシュして下ゲートマークギリギリまで粘ってテイクダウンがとても重要となる。
強風域のジェネカーホイストはノースニーク、バウダウンファースト~ホイスト、カウントダウンしフルホイストと同じタイミングでシートオン。と同時にホブルトリム(ジブトリム)をダンプ。セットと共にハイクアウト~ホブルオン、一気に加速しプレーニング!
ジャイブはアウトサイドシート(ジェネカーの外側)なのでヘルムスマンがアパレントウィンドアングルをコントロールしながらバウダウンのターニングスピードをコントロールしなければスムーズなジャイブ後にすぐにプレーニングできない。もちろんトリマーのシートイーズ、グラインダーもファーストでブン回しハイスピードでテーリング、メントリのブームを返すタイミングとセットする瞬間のホブルダンプ、クルーのウェイトバランスもプレーニングtoプレーニングジャイブに必要不可欠。
テイクダウンは次のレグでどっちのサイドに行きたいか。近いゲートマークとフリートの動向をみてテイクダウン方法と下マークまでの到達タイムをピットマンにコール。
そしてギリギリまで粘ってテイクダウン。ミスは絶対に許されない。
と口で言うのは簡単ですがミスを最小限に抑えて初日を首位で終えた。
風弱く2日目
Race 3 Start 2022/8/12 15:10:00
Class:FAST40+
Wind Speed : 6.0 kt to 8.8
Wind Angle : 215 dag to 240 dag
Course Length : 5.2 miles
この日は午前中から風弱く風待ちやらそよ風が吹いてきてスタートを2回行い上マークまで走るも風が安定せず。。
〈SWING〉は油圧トラブルでハーバーバックするもショアクルーの的確な応急処置でレースに復帰。
3度目の仕切り直しでスタート。
我々が得意としている軽風で1上から若武者集団SORIとトップ争い、最終レグでなんとか逆転しトップとなりそのままフィニッシュ。
結局この日は軽風で1レースのみ
2日目の総合成績は
MART SPIRIT 5.5点
SWING 10.5点
SLED 11点
ESPRIT 11.5点
KARASU 12点
SORI 12.5点
得意としている風速レンジで確実にいいレースをしてトップをとれたことによりチームに自信がついた。チーム内もしっかり役割分担を全うしいいリズム。
まだまだシリーズレース中盤、1ミクロンも気を抜けない状況。
ボートポテンシャル、チームパフォーマンスMAXのガチンコ勝負の3日目
Race 4 Start 2022/8/13 12:30:00
Class:FAST40+
Wind Speed : 10.0 kt to 13.0 kt
Wind Angle : 230 dag to 255 dagCourse Length : 6.0 miles
アウターサイドからスタート後ファーストタックでなんとタック失敗!
ジブシートがウィンチに逆にまかれててシートオンできないという大失態!OMG!
※STB側ウィンチは逆巻き(逆「の」の字)
リズムを崩し1上を4位回航。しかしその後冷静にレースを展開し1下ゲートで3位に浮上、最終レグで2位の〈KARASU〉とバトルするも届かずそのまま着順3位、修正3位。
さすがに3日目ともなるとどこのチームもボートポテンシャル、チームパフォーマンスを上げてくる。
アップウィンドではランナーのトリムがとても重要でディフレクターが作用するためヘッドステイにダイレクトにテンションがかかりサギング量をコントロールすることによりジブのシェイプをコントロール。もちろん連動してメインのシェイプもコントロールできる。
レース中はどの船からも「カンカン」「ゴンゴン」トリムの音が響き渡る。
その音を聞きながら背中の艇の状況をイメージしながらステアリング。
とてもわずかな差ではあるがドライブチームはパフが入った時のトリミング、パフが抜ける時のトリミング、ターゲットヒールアングル、舵角に集中、継続して常に外からの風の情報やライバル艇のモードを聞きながらボートスピードに関することを会話ループ。
その努力の積み重ねが上マークでどれだけ頭を出せたかにつながる。一切の妥協も許されない。
他のクルーはスーパーハイクを継続してるのだから。
このレースで〈SLED〉がトップで我々が3位になったことにより少し詰められるかたちとなった。
Race 5 Start 2022/8/13 13:50:00
Class:FAST40+
Wind Speed : 8.0 kt to 11.3 kt
Wind Angle : 240 dag to 250 dagCourse Length : 6.4 miles
1上から〈SLED〉とテールtoノーズのバトルが展開された。
真後ろ少し下側のストロングポジションに〈SLED〉はピタリとボートをキープしコントロールされる状況に。
下ゲートマークのレイラインまでにはなんとかクリアなポジションを打開するためにパフのタイミングで大きくハイモードステイスルオープン、ノーマル、ローモードステイスルファーリングを繰り返す。
ラッキーなことにレイライン手前でかすかなパフが入り〈SLED〉が先にジャイブ。我々はクリアなポジションに。
風速は落ちつつ南にシフト傾向でSTBタックを走り切ったため後続艇に大きく追いつかれる。
ジブをJ2からJ1.5にチェンジ。
次のアップウィンドは南に行きたいとタクテシャンからの強い意志。しかも下ゲートマークは南側の方が高い(近い)がなんと痛恨のオーバーセールw
しかしラッキーなことにライバル艇団は北側のマークを回り逆サイドへ。
ヘルムスマンとしては風速が落ち傾向でヘダー感が強くボートからパワーが伝わりにくかったのですごく不安でしたがタクテシャンを信じてボートをしっかりと走らせた。逆海面に伸ばした艇団がSTBに返してきた時にこっちを向いたので一安心。
タックしてセイルチェンジが功を奏して風速が落ちてもパワフルに走れて〈SLED〉の前を切り約20秒のリードでそのまま2上を回航、パフと〈SLED〉をケアしながら辛くもトップフィニッシュ。
3日目の総合成績は
MART SPIRIT 9.5点
SLED 14点
SWING 19.5点
KARASU 20点
SORI 20.5点
ESPRIT 21.5点
この時点で6 レース以上の場合、艇のシリーズ得点は、最も悪い得点を除外したレース得点の合計となるため次のレースが行われれば2位以下に下がることはなくなった。
チャンピオンシップは優勝しないと意味がない。しっかり得点計算して最終日に挑むのみ。
最終日 がっぷり四つの頂上決戦
Race 6 Start 2022/8/14 11:30:00
Class:FAST40+
Wind Speed : 7.6 kt to 12.7 kt
Wind Angle : 230 dag to 240 dagCourse Length : 6.0 miles
ドックアウト前にデッキ上でいつものデイリーブリーフィングと最終日に起こりうることの最終確認。
みんないい顔をしている、誰一人気持ちで負けていない、いい雰囲気だ。
誰よりも早くドックアウトしてスピードチェックとクルーワークのウォーミングアップ。
レース前のルーティンワークもいつもと同じ。
いよいよ予告信号が上がった。
スタートマニューバに入る
タクテシャンはコースに関してのプランと〈SLED〉に対してを話しているが全く耳に入ってこない。
僕はスタートマニューバとスタート後のファストミート、アップウィンドだけのことに集中した。
〈SLED〉をワッチしながらできるだけ低い位置(スタートラインから13艇身)で、かつアウターマークと本部船までフルスピードで距離40秒の位置でミート(ほぼライン中央)
我々は形的にはSTBエントリー、〈SLED〉はPortエントリー
1分前で〈SLED〉の上側でタック&バウダウン、Portタックでセイムタックに。
〈SLED〉のタックに合わせて我々も上側でタック&バウダウン。リードインで後ろからプッシュされる形で
前方アウター側には〈KARASU〉と〈SORI〉が、背中本部船側には〈SWING〉と〈ESPRIT〉がポジションをキープ。
できるだけ時間を使いできるだけ低くかつ〈SLED〉のオーバーラップに対処できるようにハンドリング。
30秒前、前方アウター側の〈KARASU〉と〈SORI〉までの距離が詰まり、〈SLED〉からの最後のフックのタイミングで我々はそのままタックを返してPortタックとなり〈SWING〉と〈ESPRIT〉の後ろをフルスピードですり抜けて本部船に向けてアップウィンドを走り次のタックに備える、スタート直前にSTBタックに返してクリーンスタート!
【MART SPIRIT】HPRチャンピオンシップ2022 頂上決戦ガチンコスタート編
↓↓↓
STBアドバンテージで有利なポジションをキープし終始カバーリング、タッキングマッチが始まる。
〈SLED〉もさすがで上手くシフトに合わせてタッキングを繰り返してフリートから遅れない。
1上付近で一つの勝負の分かれ目がやってくる。
左海面Portサイドからアプローチしてくるトップ集団の〈SWING〉と〈KARASU〉に対してどうするか?
タクテシャンは〈SLED〉カバーするためにできるだけ他艇と絡みたくないから下で受けてと提案してくるが、僕は我々はSTBだから前を切って一番左でタックしてオーバラップしてれば上マークトップ回航できる、そっちの方が今後の展開がシンプルになるとリクエスト。
チェンジコールでそのまま前を切り上マークトップ回航!〈SLED〉は5位回航。
スーパーホイストも決めて、クルーワークも最高潮!
風速が落ち傾向だけど下ゲートまで順調で我々は北側の下ゲートマークを回航、ライバル艇団は南側ゲートマークを回航していく。〈SLED〉はなんと驚異的な追い上げで3位までジャンプアップして南側ゲートマークを回航!
さすがに手強い!まだまだ勝負の行方はわからない。
北側の下ゲートマークを回航した我々はラルにつかまり一文字堤防の返し波にやられてボートスピードが上手く乗らずに苦戦。
南側ゲートマークを回航した〈SWING〉と〈SLED〉に大きく追いつかれてしまう。
せっかくのリードが振り出しに戻り〈SWING〉は見放しベストコースを行く、我々は再び〈SLED〉をカバーリングすることに。
風速が落ち傾向となり各艇から「カンカン」「ゴンゴン」と必死にトリムしてる音が響き渡る。
なんだか心地よい。
そのまま2上で2位をキープして回航、〈SLED〉も3位回航、50秒のリード。
最後のダウンウィンドは基本に忠実にフェイスを分けないように同じタックを走りそのまま2位でフィニッシュ!
やったーー、優勝確定!!最高のレースができてクルー全員で喜ぶw
最終レースは出なくても良かったのですが、せっかく遠征してきているチームもいるので邪魔にならないようにリラックスセイリング。
最終総合成績は
優勝 MART SPIRIT 11点
2位 SLED 14点
3位 SWING 20点
4位 SORI 20.5点
5位 ESPRIT 21.5点
6位 KARASU 25点
悲願の優勝
2020年にチームを発足して、苦節3年、チームみんなで耐え抜いて頑張ってきた努力が報われました。
私自身は本当に苦労の連続でした。チーム発足とは口で言うのは簡単ですがとてもエネルギーを使います。
チームマネージメントはレーシングボートの購入からはじまり、チームビルディング、セイルコーディネート、ボートチューニング、チェイスボート、メンテナンス、トレーニングメニュー、合宿所、ユニフォームなどなど多岐にわたります。
20年はコロナの影響で中止、代替えイベントとしてのHPRトレーニングレガッタの際に親マアト(プリンセス75)との接触でカーボンリギンが破損して初日の1レースのみでリタイアという大失態。。
21年もコロナの影響でHPRチャンピオンシップが中止となりHPR前哨戦だけの開催となり全レース全マークトップ回航、トップフィニッシュするもマストのクラックが見つかり大修理に。
なんだかなぁという感じでした。
そして迎えた22年ではしっかりレース準備してHPR Championship悲願の優勝を勝ち取りました。
実は7月前半からBGの計器に不具合が見つかり一部のパーツの欠品でいまだに入荷してません。
そのためHPR RegattaとHPR Championshipは風情報が全くない状態で大きなハンディを背負ってのレースとなりました。
そんな状態でしたが、今回のシリーズはすべてのレースで風速レンジに対するリグセッティングとセイルチョイスがドンピシャで常にパワフルに走れたことが大きな勝因です。スタート前に迷ったら必ず試して走ってみることの重要性を再認識しました。
やはり大切なのはフィーリングですね。
まだまだここに書ききれないことがいっぱいありますが今回はこのあたりにしたいと思います。
来年も今年同様、7月にHPR Regatta、8月にHPR Championshipが開催される予定です。