3年ぶりとなる第35回初島ダブルハンドヨットレースが74艇148名のセイラーが集まり全7クラスに分けて開催されました。
今回もKLC HORIZON 6で参加させていただき、いつも通りレースを想定してしっかりとレース準備して3連覇に挑戦です。
フィッティング
実はホライズンは2019年後半からパリオリンピックのオフショアダブルスをターゲットにフィッティングをフルクルー仕様からダブルス仕様へと改造を始めました。
当時は男女ミックス種目ということで邨瀬オーナーのペアは女性限定のため、女性でも荒天時にクルーワークを確実にこなせるように様々なトライアンドエラーをしてきました。
特にリーフ関係やダウンウィンドセイルホイスト/テイクダウンには重点を置きシンプルでスピーディーかつ確実にできるような工夫を施した仕様になっております。
ほかにも強風でダウンウィンドセイルを上げられない時のジョッキーポールやリーチングでのシーティングポイント、シートの取り回し、セイリングギアなど一切の妥協もありません。
クルーワーク
ドックアウト前にコンディションを想定しレースで使うタイミングを考慮して船内のセイル配置、荷物配分やシートセット、セイリングギアや飲食料(特に水分)の量などを最終確認。
ダブルスのクルーワークはアクションの確認、段取り、意思の疎通がすべてですがフルクルーのレースと違うのは手数の少なさだけで風速に合わせてボートを適切なアングルに導けばスムーズにできるようになります。適切なアングルやタックやジャイブの回転スピードの把握などはサイズや艇種、フィッティングなどで異なるので安全確実なクルーワークは練習あるのみです。
簡単な一例として
例えば、ジェネカーをホイストするとしましょう。
ホイストする前に考えるべきこと、準備すべきことを整理しておきます。
次第にどうなるのか?風が強くなる?弱くなる?風が前に回る?後ろに回る?
セイルは?風が後ろに回るならスピン?ジェネカー?コードゼロ?バーストした時のバックアップのセイルは?
テイクダウン方法は?ロスの少ないセイルチェンジをするにはどのシートからセットするべき?ハリヤードはどれを使う?などなどを考えてセットします。
これらはフルクルーのロングレースでも絶えずワッチキャプテンは考えてることと同じですね。
セイリングテクニック
今回の勝因の一つはホライズンの苦手な微風アップウィンドが少なかったことと、初島からフィニッシュへのダウンウィンドテクニックです。初島を20番ぐらいで回航してフィニッシュでは14番ぐらいでした。
30ftのホライズンが40ft~33ft台のすぐ後ろを走れるわけとは。
6ノット前後の微かなパフで加速させ、スピードをキープしながらバウダウンをするテクニック、いわゆるスケーティングですがこれが高い精度でできるチームが実に少ないと思います。
ただ単にラフのカールを開くだけのセイルトリムではヨットは速く走ってくれません。
テクニック詳細は割愛しますが、私も数々の優秀なプロセイラーと乗ってきましたが高い精度でこれができるトリマー/ヘルムはほんの一握りです。
もう一つ重要なのがメインセイルトリムです。
簡単に言うとダウンウィンドのメインエンジンはジェネカー(スピン)ですのでメイントリムはジェネカー(スピン)と同じリーチ形状(同じツイスト)にトリムします。これだけでも驚くほどスピードが安定します。
他にもテクニックはありますが私がオンボードしたときにこっそりアドバイスしますね。(^_-)
※特筆すべきはノースセイルジャパンのジェネカーです。
シートオンで加速(前に出て)、シートイーズで高さ(低さ)をゲイン
こうやって書くのは簡単ですが実際にはすごく繊細で絶妙なシェイプバランスです。
おそらく世界で一番美しいシェイプでセイルトリムしやすくとても速いです。セイル作成前にしっかりと打合せをしてどうゆう状況やシチュエーションで使用したいのか?インショア?ロング?などターゲットAWA、ターゲットTWSをリクエストします。そしてリグやデッキプランをしっかり計測します。(SLU、STL、スピンシートブロックの位置など)リクエストに合わせたシェイプをデザインしマテリアル、クロスの重さ、繊維の方向、パッチの大きさヤーンの方法、ヤーンの長さ、ヘッドリングやクリューリングの取付方などなど唯一無二の妥協のないセイルが出来上がります。
ホライズンも今回使用したダウンウィンドセイルはすべてノースセイルジャパン製で今回の優勝に大きく貢献したセイルです。
ナビゲーション
初島へのナビゲーションは「いってこい」なのでいたってシンプルです。
BGのバルカン、ニューペックでルート設定をし使用しました。初島へのヘディング、距離をそれぞれ行きと帰りに表示しディスプレイチャート上でセイルステアを出し初島回航時に拡大ズームにしてオンザロックしないようにチェックしてる程度でした。
ニューペックでは〇〇〇〇と〇〇を表示してコース取りの参考にしております。
ストラテジー/タクティクス
今回は特に微軽風のレースになることが予想されたので潮流を一番意識してスタート3日前からウェブ上でチェックしておりました。
朝は曇りで少し肌寒くシーブリーズも期待ができないと判断。
スタート時予報通り北っ気の風でしたが何時まで吹き続けるか、どこで風がなくなり、南っ気(サーマル現象がはじまり)が入ってくるかの判断が非常に難しかったです。
我々は長い時間ランドブリーズの残りそうな北側からホイストマニューバしやすい位置からスタートしスムーズにジェネカーをホイストしすぐにフリートのフロントでリードする形で動向を伺いました。
風が東にシフトしだし風の切れ目で南にジャイブしてフリートの南をキープできるようにポジションチェンジを試みましたが。。。
9時半ごろには北っ気の風は全く無くなり全艇のたうち回ることになりましたが潮の影響を考えてラムラインより南に出ないように西へ西へと走らせました。
10時ごろから北側のフリートが潮に乗りどんどんゲインしていくのが見えたのでちょっとがっかり(南側に来てしまったので)しましたが風もなく今さら北側には行けないのでシーブリーズ待ちでセイリングに集中しとにかく西へヘディングを向け続けました。
11時ごろになると3~5ノットのシーブリーズが入りだし先行艇はぐんぐん走り出しました。
北側から小さい艇が一艇みえ我々の遥か彼方をstbタックで切っていく。「あれは同じクラスかもな~」と思いながらスマホでヨットをチェックするも出てこない。
ホライズンは苦手な微風アップウィンドで苦戦しながらもなんとか食らいつき初島アプローチ
トップ艇が初島を回航してジェネカーを上げて復路を走ってるのがみえてまだまだチャンスはあるなと確信。俄然燃えてくる。
COG、SOGとTWDを確認しながらタックを刻み初島灯台14:16ロールコール、同じクラスかも?と思っていた先行艇にも追いつき目視で確認!まさに同クラス!負けるわけにはいかない!
エクシブの岩を超える手前でジェネカーをホイスト!
猛追!
初島の西側レイラインで同時ジャイブで上突破!勝負あり!
そこからはワッチしつつ復路レグ。
COGは5度ぐらい北に流されている。
TWS7ノット前後、TWD200~220度、0.5~1.0ノットの流れにあわせてCOGでフィニッシュへ向くべくスケーティングしながらヘディングを向ける。ラムより流されている先行艇はパフの届くのも遅く風が弱く見える。
風的にも潮的にも南側でじりじりとゲインを重ねる。とくにスピン艇はジェネカー艇に比べてセイルシェイプとメインセイルのトリムが甘く5~7艇ほど上突破!
「先生ナイスです!」
すでにオーナードライブで8時間以上!疲労もピーク!
オーパイのアパレントモードで走れたら楽なんだけど今回のレース中ではRRSルール通りでオーパイは使えない。。(初島ダブルスはオーパイ使用禁止)
ここで頑張ればオーバーオールでトップになれるかもしれないという可能性を信じて最後まで猛プッシュ!
風はどんどん落ちてきて一時は7ノットあった風も江の島沖ぐらいからは3~4ノット台に。。。唯一の救いは風が前に回ってくれたこと。
夕凪になる前にフィニッシュせねばと最後のがんばり。
日没間近、18:46にフィニッシュ!お疲れ様でした!
そして葉山新港にドックイン
速攻でレースモードから回航モードへモードチェンジ、ショアクルー、デリバリークルー総出で約一時間で完了、いつもながら素晴らしいチームワーク。
全員で渚コーヒーで夕飯を食べてレース談議に花が咲き達成感を満喫。
解散してしばらくして暫定結果がウェブにあがる。こちらもスピーディーな逗子マリーナヨットクラブ、素晴らしい。
そして、なんとオーバーオールで1位ということがわかりガッツポーズ!
やったー!!
よくみるとなんと19秒差! 最後まであきらめずに猛プッシュのおかげで勝ち取りました!
リザルト
Aクラスは残念ながら全艇フィニッシュならず
Bクラス優勝、PASTIME2 AIOLOS26 飯田/石下 組
Cクラス優勝、KLC HORIZON6 YOKOYAMA30R 邨瀬/荒川 組
Dクラス優勝、SAMOA DUFOUR36 大石/清水 組
Eクラス優勝、KAIENTAI YAMAHA33S 塩崎/林原 組
Fクラス優勝、PROPAGANDA A35 石渡/永松 組
Gクラス優勝、CENTURY FAST GP33 今澤/横山 組
ラインオナー、CENTURY FAST GP33 今澤/横山 組
勝手にオーバーオール
1位 Cクラス優勝、KLC HORIZON6 YOKOYAMA30R 邨瀬/荒川 組
2位 Gクラス優勝、CENTURY FAST GP33 今澤/横山 組
3位 Fクラス優勝、PROPAGANDA A35 石渡/永松 組